今日は学校がない。朝から問答無用で叩き起こされることも無ければ彼女がここまでやってくることも無い。なんて素晴らしい1日だろうか。たとえ無駄に時間を部屋で過ごしていてもそれだけは変わらない。
「さすがに起きないとまずいかな。」
もう時計の針が右に傾いているのだ。それもいつもの時間にセットされている目覚まし以外全て。そう思って気だるい体を重力に逆らって伸ばす。気が済むまで伸ばして下ろしたときにはまた気だるさが身体中に染み渡るのだが。
ベッドの上から降りてカーテンを開ければ、僕には眩しすぎるほどの光が差し込んできた。どうやら昨日の僕の天気予報はハズレらしい。にしてもここまで日差しがきつくては今し方起きたばかりの目に悪い。僕は欠伸を噛み殺しながら窓に背を向けた。そうして次に目を開けた時、僕には自分の部屋の床に広がる自分が見えた。その姿はまるで昔の映画のようにモノクロで、枠に収まりきらなかった頭の先が切り取られている。頭が切れているのに腰から下がきれいに映っているはずも無くて。これでは映画というより漫画の中の1コマにすぎない。
「馬鹿の顔だ。」
僕は自分であってそうでない人物にそう吐き捨てた。足も見えなくて何処に立っているのかも分からない愚かな昨日の自分に。
なんだか無性にスッキリした。
気分を切り替えて机の上の携帯を取って見るとチカチカ光るライトに小窓にはメールの表示。1件だけのそれを開いてみるとそれは柏木からだった。
 おはよう優
 って言ってもいつものお前ならまだ寝てるだろうな(笑)
 でも昨日の優はやっぱり少し変だったから起きてる可能性も…
 まぁそんなことより今日5時から蘇芳達とカラオケ行くからさ
 どうせあいつら長いから夜まで付き合わされるだろうし
 もし彼女に振られたら途中からでも来いよな
 それじゃ頑張れ。
なんともあいつらしい文面だ。自分だって安藤さんが気になるだろうに、さりげない応援の言葉が僕の背中を押す。そういえば追求するなと釘をさしておいたから今日と明日を見事に勘違いしている。そのことに気づいた瞬間、どこからともなく笑いがこみ上げてきた。これでは僕も確信犯の仲間入りだ。
「お前にはほんとかなわないよ。」
そう呟いて、しばらく笑いは止まらなかった。誰もいない部屋で僕の笑い声だけが四方から僕を襲う。ようやく落ち着いた頃には、もう僕を襲う明日への恐怖は無くなっていた。服を着替えてリビングに向かって歩き出す。
秒針がまた右に傾いた。