いつもの場所がある。僕には決まって何かをするときに何かをする場所というものがある。僕の中の定義として、これだけは誰にも侵されることの無い絶対領域だ。さすがに別の誰かと時間を共有する場合にまで持ち込むわけではないが、独りの場合は体が自然とそう動くようになってきている。もし他人が聞いたら気持ち悪がるかもしれない。でも自分的には日が昇ると起きて、お腹が減ると食べて、月が出たら寝るといった輪廻の一部に食い込まれてしまったにすぎない。僕はその輪廻の中の欠片を一昨日どこかに忘れてきてしまっている。

「ってな訳なんだけど。優はどう思うよ。」
今までの話を要約すると、元々こいつは安藤さん狙いだったらしい。それに昨日の一件で火が付いたと言うのだ。それまでに語られた惚気話は正直言って僕には関係ないので頭の中から削除した。目の前に座るバカNO.1があんな頭も良くて真面目で家事もこなせる人が振り向く器ではないと悟ったからだ。それ以前に人の惚気話みたいに退屈なものは左から右へ素通りしていた可能性も否定できない。
「ひょっとして昼のやつにも絡んでたりするのか。」
「え?あぁ、あれか。だってあれ頼んできたの安藤さんだし。」
ちょっと待て。確かあれは彼女じゃなかったか。だって
「彼女も心配性だよなぁ。俺に聞いてみてくれなんてさ。」
…。よく考えれば何も言わなくても僕の早とちりだ。
「お前もいい根性してるよ。」
全くもって声に出してなくて正解である。
「おかげさまで。でさ、優的に脈あると思う?」
僕は自分の思っていることをそのまま述べても良いのだろうかと迷った。さっきのはあくまで僕の客観的思考である。安藤さんが外見で判断する人なのか中身で判断する人なのかも僕は知らない。迷った末に僕は思ったことを言うことにした。
「お前さ、根性ありすぎ。普通に見たらそりゃないだろ。」
「やっぱりそう思う?でも優みたく奇跡が起きるかもしれないじゃん。」
「奇跡って…。」
「あれは誰がどう見たって奇跡だろ。あぁ、俺にも起きないかなー。」
目の前に天使でも見えるのだろうか。顔を上げながら手を合わせて目を煌めかせている姿は僕が見ても引くのだから、他のお客さんが引いても僕は何もいえない。
僕は別に私立の学校に通うほど裕福な家庭に生まれたわけでもなければ、高校にもいけないほど貧乏な家庭に生まれたわけでもない極普通の学生だ。更に言うと特別趣味があるわけでもなく成績優秀でもスポーツ万能でもないただの人間だ。
そんな人間が強運なはずないし、奇跡なんて引き起こせるはずも無い。
「あれは偶然だよ…。」
小さい声で自分にそう言い聞かせた。