「じゃあ、また月曜にな。土日遊びすぎるなよ。」
そう言うとうちの担任はこの教室を出て行った。大した連絡事項がなくてもこうして嬉しそうに生徒の顔を見に来るところだけは賞賛に値する。その他はというと僕は選択の関係で彼の授業を受けたことがないのでノーコメント。人の素性を見た目や噂だけで語るのは嫌いなことの1つだ。

僕が鞄に荷物を詰め終わってちょうど席を立とうとした時、後ろから僕に伸びる手があった。
「なぁ優。休みは駄目でも今日はいけるんだろ。」
休みと言われた瞬間、思いっきり振り返ってきつい視線を送りつけてやったが引く様子はない。どうやら真面目な話のようだ。
「ならさ、ちょっと俺に付き合ってくんない?」
「別に用はないけど、何か聞きだすつもりなら」
「いやいや、そうじゃないって。マジで相談乗ってほしくてさ。」
こいつが僕に本気で相談したいなんて明日は雨が降るのだろうか。それでも構わないが明後日に響かない程度に頼む。
「いつもの感じじゃなさそうだし、別にいいけど。」
「良かった。さすがは優しいと書いて優と読む。」
僕が次に言う台詞を分かっているのか柏木は良かったと言ったときには席を立って、次に皮肉を吐いたときには教室の後ろのドアに手をかけて顔だけをこちらに向けていた。確か僕の机が教室の真ん中にあるのだから、その後ろの机がそんなに出口に近いなんてはずはありえない。驚異的スピードなんてのんきに感心している部分に怒りの部分が抑えられるはずも無かった。
「かーしーわーぎー」
「冗談だって。じゃあ駅前のとこでいいよな。」
「いいよ。今日はお前のおごり決定だし。」
「はなからそのつもりだって。じゃなきゃあんなこと言わないし。」
出口に一番近い机の後ろを通り過ぎると、柏木は待ちわびたかのように僕に
「行こうぜ。」
と声をかけて肩に腕を回してきた。その腕の重みが何故だか僕にはとても心地良いものに感じられた。これが男同士だと実感しているのか、もっと違う何かを感じているのか。だがそんなことまで考える余裕も与えられず、僕は隣で話される何気ない世間話に耳を傾けて相槌を打ち続けた。もちろんその間に彼女が誰といて何を話して何を考えているかなんてことは全く知らない。
僕らのやり取りを見て密かに笑っていたなんてことは全く知らない。