授業終了の鐘が鳴り響いてクラスが土日の遊び相手を探す声で騒がしい。僕はそんな皆の中心で次のチャイムと同時にこの教室に入ってくるだろう担任を大人しく席に座って待っている。もう予定が決まっている僕は話に入ることも誰かの話に耳を傾けることもできない。そんなことをすれば僕の中で気持ちが揺らぎそうだ。
「それいいじゃん。なぁ柏木も来るよな。」
「もち。行く行く。」
「なら駅に1時待ち合わせでよくない?」
「それなら5時ぐらいから夜まで行こうぜ。」
この声は順に蘇芳裕也、柏木、斉藤弘樹、清水亮。1名フルネームじゃないが。とにかく僕がよくつるんでいる代表格が勢揃いしている。何も聞こえないようにしていたのに、いつもの調子で頭に入り込んできたらしい。にしてもこのままいくと僕にまで話が回ってきそうな雰囲気だ。それだけはなんとしても避けたい。前例からして無理な話だろうけど。
「柏木さ、いつも通り優にも声かけといて。」
まぁこの場で誘われなかった分ましだったかもしれない。
「あー。優は来ないんじゃないかな。」
「なになに。何か知ってるわけ?」
「もったいぶってないで教えろって。」

「俺の勘が彼女と出かけるって告げてる。」
なんて爆弾発言をかましてくれるんだこいつは。いくら痛いと泣き叫んでも今僕が髪を持って引きずっているのは正当化されるはずだ。何といっても腹黒NO.2に認定済みなのだから。その一方で向こうではそういうことか。とか、それなら無理だよね。とか好き勝手はやし立てられている。
「もうちょっと加減しろよ。つか優、ひょっとしてマジ?」
「ひょっとしなくても本当だよ。この馬鹿。」
無視していれば軽いジョークで済んだであろうこの話題はうっかり自分が動いてしまったことで暴露せざるおえない状況へと発展してしまったのだ。今更隠しても意味がない。むしろここは先手を打って釘を刺すべきだ。
「めんどくさいから話を広げるな。2度とこの話を持ち出すな。…分かったか、この。」
「ワカリマシタ。」
すると柏木は思った以上に大人しくなった。さすがに自分の失言に気づいたといったところだろうか。他の皆もこっちの空気を読んだのか席に戻り始めている。そういえばそろそろチャイムが鳴る。彼女はまだ教室の隅で安藤さん達と会話を続けている。
うちの担任はチャイムと同時にこの教室に入ってくるだろう。そして必ずこう言うのだ。
「おはよーう。早く席に着けよ。」