今日はなんだか無駄に柏木が僕の頭を支配している気がした。現在昼休みのチャイムが鳴る15分前。
どうしてなんて言わなくてもこいつがいつまでも僕の後ろで居眠りしてるからだ。教師の中でも寝ている奴を置いてくタイプは問題ないのだが、困るのは寝ている奴を起きるまでとことん起こしにかかるタイプだ。そんなに寝られたくないなら一度でも居眠りをした生徒にはテストの点数関係無しに問答無用で赤点をつけてやればいいのだ。そうすれば一気に噂が広まって授業中寝る奴もいなくなるというのに。授業改善の前に生徒のせいにするのはそろそろやめて欲しい。それと怒鳴るなら僕の顔を見て怒鳴らないで柏木を怒鳴ってくれ。このままじゃいつか僕が怒られる対象と勘違いされてしまう。

もうそろそろ柏木の存在を頭の中から排除してしまおうか。現在昼休みのチャイムが鳴る10分前。
いっそ存在自体を無かったものだと思えればこんなに気を使う必要も無くなる訳だし。先生も皆柏木はいないものだと思えばいいのだ。僕の後ろの席は空席で首を長くして転校生を待っていることにすれば誰も僕の顔を見て「起きろ、柏木!」とは叫ばなくなるだろう。このクラスには名簿を見ても座席表を見ても柏木という名前は見えていて見えていないのだから。そもそも僕の背に隠れて眠っているこいつの顔を何人の先生が拝見したかは知る由も無いが、金山が拝んだことが無いのは確かである。

振り返るんじゃなかったと後悔しても遅かった。現在昼休みのチャイムが鳴る5分前。
後数分もすれば昼休みだというのにこいつの昼夜は逆転しているんじゃないだろうか。さすがの僕も昨日の睡眠不足+この寝顔で眠たさが極限まで高まっている。このままいくとお昼の次の授業はドミノ倒しの要領で前の3人も眠っていきそうだ。しかしこの仮説は1番前の席に安藤さんがいることで成り立たないだろう。安藤さんは普段から授業に取り組む姿勢がとても真面目なのだ。柏木もそんな姿勢を1%でも真似すれば教師全員に顔を拝見してもらえるかもしれない。…夢のまた夢の夢になるからよそう。

「疲れたぁ〜。」現在昼休みのチャイムが鳴る0分前。
それまで1日の学校生活の半分以上を眠っていた柏木が場違いな台詞と一緒に起きた。当人曰く、眠るのにも相当体力を使うそうだ。信憑性の欠片もない発言である。ついでに彼が学生であることを否定しかけていたが、お腹がすけば体が要求するその身体とご飯を待ってましたとする姿勢だけは学生そのものである。
「優。食堂行こうぜ、食堂。」
「…はいはい。っていうかその名前で呼ぶな。」

「優君、私たちもお邪魔していいかな。」
彼女が意外にも安藤さんを引き連れて尋ねてきた。現在昼休みのチャイムが鳴る5分後。