今日の1時間目は実に快適である。

「じゃあ、次のそれから1時間してのところを佐藤さん読んで。」
今日最初にクラスの教壇に立つのは国語科の成瀬真紀先生。昨日の数学教師とは打って変わって学年でも人気のある先生だ。あの柏木の顔を毎度の如く拝んでいる数少ない先生でもある。国語というと数学よりも授業をさぼって聞いているイメージが強く浮かぶが、成瀬先生の場合は授業の進め方やまたその容姿と性格からか男女共に好評を受けている。
「それから1時間して駅に戻ってみると、そこに亜紀の姿は」
僕の中の見解としては国語と言う教科の評判が下がらないのはまず宿題というものが無いからだと思う。金山には悪いが数学はとにかく宿題が多い。もっとも宿題にでもしなければ自習などしない生徒がいるのだからこの点においては仕方がないと僕も思う。しかし国語に関してはそんな心配が一切無い。あってせいぜい本読み程度だろう。作者の思考を正確に読み取ることなどあちらは要求しないし、その形を感想文などで要求されたとしてもそんなものは即興でも書ける。
「に似た1匹の猫がダンボールの中に捨てられているのを見て」
学校生活における国語の授業の捉え方は定期試験に出る場所をどれだけ授業で押さえられるかにある。少なくとも僕はそういった見方で授業を聞いている。後ろで呑気に先生を見つめている柏木にはまず想像もつかない考え方だろう。でも実際作品に対する本当の思考力なんてものは今までの人生や家庭の中で育まれる語源が豊かにならなければつくはずもないし、授業だけで補えるのならば僕の思考回路は神にも匹敵するだろう。
「傘を置くと、誠二は勢いよく家の反対方向に向かって走り出した。」
「ありがとう。それじゃあ続きを柏木君。」
また当てられたか。ほとほと懲りないな。
柏木はよく成瀬先生に当てられるが、もちろんそれは先生が原因ではない。100パーセント原因は柏木にある。普通に考えれば当たり前のことだが、授業中永遠と顔を見つめられれば真面目に聞いているのだと思う教師に当てる他に出来る行動は無い。
僕が産まれてから初めて柏木と会ってそして現在に至るまで、今時ここまで素直な学生は他に見たことが無い。言い方を変えればここまで単純な奴は見たことが無い。単純なだけにクラスではバカNO.1とも称されているが、僕は逆にここまでいい人間は学校中探してもいないと思う。こういう相手には深く考えずに話が出来て一緒にいても話が絶えることはありえないし、気軽に相談も出来る。僕の周りには彼女がいるせいか、こういった友達はもはや必要不可欠なのだろう。

「はいっ。」
元気のいい声が響くのと椅子のずれる音がするのはほぼ同時だった。